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  2022年7月:博多
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印刷文化の黎明知味観・学食・印刷の世界史東長寺華味鳥

【7月2日(土)晴】印刷文化の黎明

投宿したホテルの真ん前、地下鉄空港線の祇園駅から西新駅まで移動、所要時間は15分ほど。簡単な漢字二字を組み合わせた<西新>を<にしじん>と読めなかった。

西新駅から西南学院大学博物館までは、一戸建てや集合住宅が並ぶ細い道を徒歩で5分ほどだった。
西南学院大学博物館は1916年に開校した同校開校時の本館・講堂だった建物で、三階建ての赤煉瓦造りの壁には濃い緑色をした太い蔦が這っている。

西南学院大学博物館。

赤煉瓦にガラスが嵌め込まれ純白の木製の扉、それだけで時代を感じさせる建物だ。

白い扉が眩しい。

レンガ壁に嵌め込まれた銘板にある「ドージャー」は西南学院の創立者C.K.ドージャーのこと、彼の遺品を展示する記念室も併設されているようだ。

扉の手前の大きなバナーで、ここが目指してきた博物館だと分かる。

扉を入るとすぐ左手に黒い玄武岩で作られたと思われる高さ1メートル余り、幅50センチメートルほどの「メシャ碑文」の複製が据えられている。

メシャ碑文。

古代イスラエルとモアブの歴史的関係を示すフェニキア文字で刻まれた貴重な聖書外資料で紀元前9世紀のもの。オリジナルはルーブル博物館の所蔵。受付のスタッフに尋ねたところ、メシャ碑は今回の特別展とは関係なく常にここに設置されているという。

フェニキア文字の碑文。

天井の照明を受けて黒光りしている板張りの広い廊下には「印刷文化の黎明」展に関連する展示品が並んでいる。

展示品が並ぶ廊下。

入り口横に据えられた大きなガラスケースには四十二行聖書の複製がドンと展示されている。四十二行聖書は1455年頃、ドイツのマインツでヨハネス・グーテンベルクが羊皮紙に活字で印刷した聖書のこと。その殆どのページが42行で構成されていることから、こう呼ばれてる。グーテンベルグはこの聖書を180部ほど出版したようで、そのうち49部が現存している。その重量感と存在感は凄い。

四十二行聖書(複製)。

四十二行聖書の隣には活字ケースに収まるボドニーのイタリック体活字も展示されている。活字ケースも活字も福岡市城南区にある活版印刷の文林堂の提供によるもの。

ボドニーのイタリック体活字。

展示は「第一章 写本から印刷本へ」「第二章 印刷都市の拡大」「第三章 日本伝来」の三つに分かれている。以下に特に目を引いた展示品を何点か紹介する。

【第一章 写本から印刷本へ】

高価な写本から入手しやすくなった印刷本に移行する時期に刊行された、主にキリスト教に関連した展示品が並んでいる。

◆ 楽譜付きミサ典書写本断片(オリジナル)
1150年頃にフランクフルトで刊行されたと思われる典礼書の一葉。後世に印刷本の装丁に再利用された羊皮紙の写本断片。

楽譜付きミサ典書写本断片(表)。

楽譜付きミサ典書写本断片(裏)。

◆ 聖母マリアの小聖務日課書(オリジナル)
1480年頃、北フランスで刊行されたもの。羊皮紙が使われた写本。本文組の中に赤色で印刷されている単語があるのが目を引く。

聖母マリアの小聖務日課書。

聖母マリアの小聖務日課書。

◆ 聖ヒエロニムス「マタイ福音書註解」(オリジナル)
1497-98年にヴェネツィアで刊行された聖ヒエロニムスによるマタイ伝の註解書。紙に活版(一部木版)で印刷されている。ページいっぱいに組み上げられた一段組の単語間のアキは僅かで、行間はベタ組みではないかと思われるほどビッシリと組まれている。以上の展示はいずれもオリジナルです。

聖ヒエロニムス「マタイ福音書註解」。

聖ヒエロニムス「マタイ福音書註解」。

【第二章 印刷都市の拡大】

マインツから始まった印刷術が瞬く間にヨーロッパ各地に広がっていった様子と、それによって残された仕事の数々が展示されていまる。

◆ ニュルンベルク図(オリジナル)
縦40センチメートル、横60センチメートルほどの二葉に別れた大きな版画で、二重の城壁に守られたニュルンベルクの街並みや教会が精緻に描かれている。紙に活版(一部木版)で印刷されている。1493年にニュルンベルクで刊行されたドイツ語版「ニュルンベルク年代記」の一部。

ニュルンベルク図。

◆ ダンテ「神曲『天国編』と『煉獄編』」(オリジナル)
1491年にベネツィアで刊行されたもの。紙に活版(一部木版)で印刷されている。展示されているページは縦三列に分けて組まれており、上と下の列はさら二段組みになっている。右上に大きな図版を、左段の上と下に神曲の本文を配している。中央の列は本文よりも小さな活字で組まれた一段組み本文の注釈。

ダンテ「神曲『天国編』」。

ダンテ「神曲『煉獄編』」。

◆ 栄光なるおとめマリアのロザリオ(オリジナル)
1556年にヴェネツィアで刊行された印刷本。紙に活版(一部木版)で印刷されている。イタリア語で書かれた最古のロザリオ祈祷書。

栄光なるおとめマリアのロザリオ。

【第三章 日本伝来】

キリシタン版と呼ばれる刊本が展示されている。キリシタン版とは、ヨーロッパ中で普及した印刷術が16世紀末になるとキリシタンと共に日本にやって来くるが、そこでイエズス会が残した活字による印刷本の総称。豊臣秀吉の伴天連追放令や徳川幕府の伴天連禁止令の影響を受けて、その活動期間は僅か20年という短期間だった。

◆ どちりな・きりしたん(復刻)
イエズス会によって刊行されたカトリック教会の教理本。タイトルは “Doutrina Crista” を仮名書きしたもの。1591年に加津佐あるいは天草で刊行されたと思われる。和紙に連綿体の金属活字で印刷された和装本で、日本の活版印刷史を遡ると必ず出会う一冊。

どちりな・きりしたん。

◆ ぎや・ど・べかどる(復刻)
ポルトガル語で書かれた “Guia de Pecadores” の日本語抄訳。1599年に長崎で刊行された上下二巻,二冊からなる、和紙に連綿体の金属活字で印刷された和装本。
確認することはできなかったが、表題の下に『罪人を善に導くの儀也』とあり、これが「ぎや・ど・べかどる」の意味。信仰修養の書として知識階層のキリシタンに広く読まれた。

ぎや・と・べかどる(表紙)。

ぎや・と・べかどる。

◆ こんてむつすむん地
1610年に京都で刊行された、和紙に連綿体の木活字で組まれ、その版面を版画のようにバレンで刷りとった和装本。「こんてむつす むん地」は “Contemptus Mundi” の漢字かな混じり表記で『世の思いを捨てる』という意味。「どちりな・きりしたん」と共に名著と言われている。

こんてむつすむん地。

◆ 羅葡日対訳辞書(復刻)
原題 “Dictionarivm Latino-Lvsitanicvm, ac Iaponicvm”、日本イエズス会版。1595(文祿4)年、天草学林刊。イタリア人のアウグスチノ会士カレピノ(カレピヌス)の「羅伊辞典」(1502年、ローマ刊)のラテン語に日本語を当てた辞書。ラテン語見出しにポルトガル語で語釈、日本語類義語を記載する。

羅葡日対訳辞書。

◆ 羅和辞典(復刻)
原題 “Lexicon Latino-Iaponicum”、ローマ刊。ベルナール・プティジャン編。

羅和辞典。

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